コラム② なぜ平均寿命なのか?
―私たちの考え方と想い―


平均寿命サミットは、第1回が2013年に青森県、第2回が2014年に沖縄県で開催されました。なぜ平均寿命に着目するのでしょうか。平均寿命はその言葉から、「死亡年齢の平均値であり、高齢者世代のみに関わる指標である」とよく誤解されます。しかし、平均寿命は全世代の死亡率から計算される、つまり全世代の健康に関わる指標なのです。第1回平均寿命サミットの案内チラシには、開催趣旨として以下のように記載しました。 

 

都道府県の平均寿命ランキングは5年に1度発表されます。しかし、その格差の詳細な分析は簡単ではありません。その理由は、平均寿命は人間の営みとそれを取り巻く社会環境要因の最終表現型(結果)のひとつであり、その中に、さまざまなレベルで多くの因子が関与しているからです。生活習慣、健康に対する考え方、健康知識などの差は勿論ありますが、その基盤にある気候、文化、経済、教育などの影響も無視できません。もちろん医療体制・レベルや健診受診率も関係するでしょう。加えて、データそのものの信頼性についても評価する必要があります。このように平均寿命の成り立ちの複雑さに起因する分析の難しさはありますが、平均寿命そのものに思いを馳せることは、健康を俯瞰して、その本質を知る最も良い方法です。そのための共通の土俵として本サミットを企画いたしました。 

 

第3回平均寿命サミットにおいても、この趣旨に変わりはありません。もちろん私たちは、「平均寿命より健康寿命が大切ではないか」という意見があることも承知をしております。健康寿命との関連も当然ながら議論されるべきテーマでしょう。 

 

一方で、いま、改めて「平均寿命」そのものを考える意義も大いにあると考えています。平均寿命およびその基となる生命表のデータ (年代別の死亡率を含む) 

は、政府統計ポータルサイトであるe-Statにおいて、都道府県別・市町村別に、かつ過去に遡って誰でも入手可能ですが(このこと自体も健康寿命と比較した平均寿命の大きな強みです)、必ずしも適切に理解され活用されているわけではありません。 

 

例えば次の図は、2020年度(令和2年度)の都道府県別平均寿命を並び替えたものです。 

トップと最下位の青森県との差は男性で約3.5歳、女性で約2.0歳です。この差は何を意味するのでしょうか。今回のシンポジストである中路重之氏は、2010年度のデータ(当時は男性の差は3.6歳)について、著書でこのように記しています。

 

「強調したいことがあります。それは、平均寿命の3.6歳の差は、一人の人間の人生の最終時点の差を意味するのではないということです。乳児・小児の死亡率が高く、比較的若い世代(30、40代など)の死亡率も高いことを含めた結果(数字)なのです。…(中略)…青森県民が長野県と同じような死亡率であると仮定すれば、現実の死亡数より約3000人減少することになります。」

(中路重之著,『Dr中路が語るあおもり県民の健康』,2013年)

 

また、平均寿命自体は全国的に伸び続けていますが、都道府県順位は長い目で見ると大きな変動があります。例えば1965年以降の長野・青森・沖縄・滋賀の順位の推移を描くと以下のようになります(1位がその年で平均寿命が最も高いことを示します)。

ご覧の通り、長野県の平均寿命は2010年では男女ともに1位でしたが、2015年以降は滋賀県など他県にその地位を譲っています。今回のシンポジストである小林良清氏は、長野県と滋賀県との差に着目して、それが10歳前後の子どもの死亡率の差によるもの(つまり長野県は滋賀県や全国と比較して子どもの死亡率が高い)であることを示しています(小林良清,日本公衆衛生雑誌 第65巻10号,2018年)。また、沖縄県は男性の平均寿命が2000年に26位に急落し、「沖縄クライシス」と呼ばれましたが、その後も男女ともに順位はさらに下がっています。その要因は主に働き盛り世代の高い死亡率にあるといわれています。一方で、沖縄県の高齢者世代の死亡率は全国的にも低いまま(つまり長生き)です。

 

このように、平均寿命およびその順位の差には、大きな意味があります。そしてその背景には、地域の社会的環境を含むさまざまな要因があります。そこに、これからの健康づくりのヒントが隠されているのです。平均寿命サミットは、順位を競って一喜一憂するための場ではなく、あらゆる世代が平均寿命を通して健康に向き合い、より健やかな地域づくりを考えていくための場です。第1回目の開催趣旨にある通り、平均寿命そのものに思いを馳せることは、健康を俯瞰して、その本質を知る最も良い方法です。第3回目の開催を迎えるにあたり、私たちは以下のメッセージも追加します。

 

平均寿命そのものに思いを馳せることは、全世代が等しく健康に向き合い、健康を「自分ごと」ととらえ、地域で健やかに生きることをともに考え、とも歩むための最も良い方法です。

 

平均寿命サミット推進会議
 
中路重之(弘前大学特別顧問)

  糸数公    (沖縄県保健医療介護部長)

  青木一雄(沖縄産業保健総合支援センター 所長)

  今村晴彦(長野県立大学大学院健康栄養科学研究科 准教授)